各駅停車ジュンペイと師匠カエルvol.3

 「起きろ、起きるんだよジュンペイ」
僕の睡眠を妨げる誰かがいる。それは誰だかわからなかったけど、そいつはただのカエルであった。喋るカエル。非現実的な出来事に、何故か僕はうまく順応してしまった。
「カエルに起こされてしまう朝、そんな朝も悪くないだろうし、そんな人間はこの世にいないんだろうなぁ」
と、少し優越感に浸っている自分がすごく悲しかった。
「ジュンペイ、走るよ」とカエル。
「なんで走るんだよ。まだ朝の4時だよ!君は頭が狂っているよ。」
「各駅停車でいいのかい?」その瞬間、僕は目の前にいるカエルを思いきり殴りたくなった。解剖実験の実験材料にでもなってしまえ。
「各駅停車と言うな。次言ったら太陽を持ち上げて君の頭上に落としてしまうよ」
「できるわけがない。バカなこといってないで早くジャージに着替えろよ」例え話はカエルに通用しない。
 とりあえず、僕は言われるがままにジャージを着て外にでた。
「はい、じゃあここから約3kmの空き地までカエル飛びで行け」
「カエル飛び?0」僕の知っている飛び方は「ウサギ飛び」だけだ。カエル飛びなんて僕の中には存在しない。とりあえず「カエル飛び」をやってみた。とはいえ、それは明らかに「ウサギ飛び」であり、それがカエルにも理解されてしまった。
「ジュンペイ、それはウサギ飛びだ。カエル飛びは、蹴った足を外側に開かなくてはいけない」
「なんて理論なんだ、カエル飛びは。」と思いつつ、僕はその通り従う。1kmもいかないうちに、僕のふくらはぎや太ももから悲鳴があがる。それも当然だ。普通の人間、そしてナマリにナマッた人間の身体が、このカエル飛びに耐えられよう体力は備わっていない。
 そんな過酷な日々が約1ヶ月続いた。僕のふくらはぎと太ももは、はち切れんばかりに膨れ上がった。その両方の筋肉は2つに分離し、腹筋は6つに割れている。
「各駅停車」
そんな言葉にコンプレックスを感じる自分の存在を忘れ、自信に満ちあふれる「新生ジュンペイ」が誕生した。
「各駅停車、そんな鈍行な僕の走りっぷりは今の僕には想像できない。僕の走りいや、飛び方は誰に追随されるわけもない。」その時のジュンペイの100メートルのタイム、12秒ジャスト。