名称未設定フォルダー1

オレの勤務地は秋葉原に位置する。
もっと具体的に言うと、住所は浅草橋なので、最寄駅をあげる場合、適当な駅は浅草橋駅に該当するわけだが、

「オレもオタクの仲間入りなのだよ」

と声高に叫びたいが為に、オレは皆に、

「オレ?オレはアキバだよ」

などと、軽いウソをつく。
いや、完全なるウソではない。
オレの下車駅は純粋な「秋葉原」だから。
要するに、

「勤務先は浅草橋だけど、下車駅は秋葉原だよ」
というのが面倒臭いので、一言、

「オレ、アキバ」

もう少し要約して、

「オレ、オタク」

それでも世の中では通用する。世の中では、
オタク=アキバ
確実に成立している方程式である。



そんなこんなで、秋葉原を利用して丸1年が経とうとしている。
ただ情けないことに、秋葉原を利用して1年が経とうとしているのにもかかわらず、オレはまだ1度も「メイド喫茶」を利用したことがない。
そんな「偽りオタク戦士」なオレなのに、目の前の秋葉原名産品を無視しているのに、その先に存在する「執事喫茶」にオレの気は傾いている。
未だにJR秋葉原駅構内で迷子になるオレなのに。


ギャラクシーエンジェル
皆はこれを知っているだろうか?
名前からいって、明らかに「アキバ系産物」なのだが、オレはつい先日、このキャラクターを知ることとなった。
オレが「昭和通り改札」を目指す時、いくつかのエスカレーターを利用するわけだが、その、
ギャラクシーエンジェル
なるキャラクターのポスターが、所狭しとエスカレーターの壁に貼られている。駅構内までもが「アキバ色」に染められるその姿を見た時、オレは多大なる恐怖を感じた。

「オレはアキバに相応しいのだろうか。オレはいつになったら『偽りオタク戦士』の『偽り』が外れて『オタク賢者』になれるのだろうか。」

そんなブルーなオレは、秋葉原での希望を失った。
エスカレーターで対向してくる者たちの中で、オレに希望を与えてくれる者はいない。ライムな香りを醸し出す人がいない。
ただそんな中、1人滅茶苦茶に笑顔な男が対向者の中にいた。


「アキバ賢者さん!」

オレは狂喜した。
彼は紛れもなく「アキバ戦士」からレベルアップした「アキバ賢者」だった。「アキバ賢者」の目線は、レーザービームのごとく「ギャラクシーエンジェル」に注がれている。そして笑っている。
ただ黙々とエスカレーターに身を任せている人々の中、彼の存在はライムの臭いを醸し出した、純粋な「アキバ賢者」だった。

オレは満面の笑みだと思った。
遠めからは確実に笑っていた、アイツは。
それなのに、
近場で見たら、
苦笑いだった。

何故だ?「アキバ賢者」がなぜ「ギャラクシーエンジェル」を見て苦笑いをする必要がある?
アキバワールドじゃ、
ギャラクシーエンジェル=満面笑み
じゃないのか?

オレの中で、戸惑いと恐怖が渦巻き、その傍らで好奇心が急成長を遂げている。
オレはポスターに目を移した。
2頭身で目の大きい、いかにも「アキバ」なキャラクターそこにはいる。
アキバキャラクターのそのほとんどは、2頭身か8頭身でできている。
その2頭身キャラクターにテロップがついていた。

ギャラクシーエンジェルが発売延期になっちゃったよー」

発売延期で苦笑い。
そんなわけで、オレも、過ぎ去った「オタク賢者」「周囲の者」「ギャラクシーエンジェルのキャラ」その3点を見回して苦笑い。

翌日、ポスターは1枚残らず剥がされていた。
そのポスターの行方、「オタク賢者」の行方は誰もシラナイ。