各駅停車ジュンペイと師匠カエルvol.1

目覚ましが起き出した時、僕の1日は始まる。ベッドから這い上がり、カーテンを勢い良く開けると、僕の目に一筋の光が差し込む。その瞬間僕は思わず目を瞑るのだけれども、マブタの裏側が白く光って、幾分温かさを感じる。その快感とともに僕の思考回路は覚醒される。そっと目を開くと、目の前には出窓のスペースに置かれている観葉植物がある。振り向くと、まだ温もりを十分含んだベッド、パソコンのキーボードの隙間にはり巡らされたハウスダスト。そして昨晩からつけっぱなしのテレビが、サンドストームの時期を通り過ぎて、天気予報を始めている。天気は晴れ、降水確率ゼロパーセント。すばらしく最悪なコンディション。パリ−ダカールレースで言うのなら、猛吹雪の中、ボンネットから煙を吐き出しながら走る車を運転し、サッカーワールドカップ決勝で言うのなら、スタジアムのライトが停電して、白煙筒をライト代わりに試合を行う有様。僕にとっての晴れはそんなようなところだ。こんな日には、随分と逆らいたくなってしまう。真冬に向日葵の種を植えてやりたいし、秋に桜を咲かせてやりたい。洗濯機の中で、一晩過ごしてやってもいい。
 
 パンを牛乳で流し込み、いつも通りの時間に家を出る。僕はなんだかんだと言いながらも、いつも「それなりに、普通に」物事を進める。不満があっても、そのほとんどは自己抑制によって解決される。我ながらその辺はすごいと思っている。誰よりも口数が少なく、その辺を自分では「クールさ」として心している反面、
「正直、周りの者たちは暗いと言っているのだ」
と自覚しているのも反面。
 一限から四限まで僕は、ドストエフスキーの「罪と罰」を読む。そんな僕をみんなは気にしていないし、担当の先生も何も言わない。数学教師だろうが英語教師だろうが。僕の存在はいたって皆無である。五限目に入る前に、僕は屋上へと向かう。相変わらず青い空に憎悪すら覚えてしまう。そしてそのまま僕の中で五限目はスルーされてしまうのだが、スルーするのは僕だけであって、五限目に限ってみんなは僕の存在をさらけだそうとするのである。しかしみんな僕をみつけられない。だって僕はその時すでに洗濯機の中に隠れていたのだから。屋上の冊に手を掛けグラウンドを眺めると、紅白の帽子をかぶったシロアリみたいなものが走っている。そう、ただ漠然と走っている。それを僕は上から見下ろす。そして今すぐにでも、このグラウンドを水浸しにしてしまいたくなった。季節外れの台風なんかが直撃してしまえばいいのにと。