カルアミルクに映る君はさ…

 いつの話だったっけ、もう忘れちゃったけどさ。
あの娘、可愛かったね。とても「ノリ」の良い娘だったかな。
あの頃の俺って、今でもそうだけど、若僧だったから、お酒の飲み方を知らなかったんだ。ただひたすらお酒を流し込んで酔っぱらってるものだから、
毎晩ていねいにお酒を飲む親父を、久しぶりに尊敬してたっけなぁ。ほんの一瞬だけね。

 そうそう、その可愛いあの娘は、たしか2杯目に「カルアミルク」を頼んでたっけ。となりの男友達は「ソルティドッグ」を頼んでたんだけど、コップをクルクル回して、一生懸命「塩」を求め飲んでるもんだから、なんとも滑稽な感じでさ。

 あの娘の顔をまともに見れないもんだから、俺はただひたすら「カルアミルク」を覗いてたっけ。茶色く淀んだ色の「カルアミルク」に、あの娘の顔が映るわけもないのにさ。でも、すごく緊張してたなぁ。「カルアミルク」越しにあの娘を覗いてること、誰にもバレてないかなって。

 何時くらいに帰ったっけ。
俺の体内時計の長針と短針が、逆回りするくらい酔ってたもんだから。
5杯目のビールが効いたかな。まぁこの泥酔、あの娘の存在も関係してるだろうなぁ。

 俺とあの娘は、帰りの電車が同じもんだから、2人して帰ったっけ。
あの娘は何とも思ってないだろうけど、俺は軽くデート気分でさ。
終電間際の電車内はすごく混んでて。
でも久しぶりに満員電車に喜びを感じたよ。あの娘がこんなに近くにいるんだから。でも、やっぱり顔を覗けない。車窓に映るあの娘と俺は会話してたんだから。
心臓の鼓動とともに全身の毛穴が閉じ開きするこの感覚。2度と味わえないだろうな。

 気付けばあの娘は途中下車。ドア越しにお互い手を振っていたっけ。
でもずっと気になってた。
「カルアミルク」飲んでる時も、
電車の切符買う時も、
最後に手を振る時も、
あの娘の左手薬指。
キラリと輝く一等星みたいでさ。
その星をさ、「カルアミルク」に沈めてやりたくて。



今度、久しぶりに「カルアミルク」飲もう。
もちろんオーダーは2杯目で。