男泣き

 「男泣き」という行動は惨めか否か。
俺は惨めなんだと思う。
女の涙は一般的に武器になるというが、男の涙は何でもない。
単刀直入に言う。


「男泣き?俺はするよ。」


 今日は大学の知人たちと会った。何故だか俺を誘ってくれる知人たち。
例えこれが社交事例なものだとしても、俺は誘ってくれる限り、お言葉に甘える。
それにしても、先週の火曜に思いつき、そして今日開かれたこの企画。なんという決断力、即決力、そして団結力だろうと、しみじみ感じる。
そりゃ、集合場所が大宮であっても行きますよ。
大宮駅の豆の木に集合?どこだか知らない俺に女の子のMチャンはこう言う。
「渋谷のハチ公前みたいなもんだよ。」
「ハチ公前」「明治神宮前」に続き、「豆の木前」が俺の知る集合場所の1つに加わった。


 カラオケに行き、その後、俺たちは飲みに向かうというこのスタンダードな方向性に逆らうことはなかった。しかし、今日の酒場は一味違った。


「ルックアップ」


知る人ぞ知るオシャレ飲み屋。
ティービィーなどで見た者もいると思うが、場所が監獄なのである。
そして2、3時間に一度、ジェイソンなどの怪物たちが俺たちの牢屋を襲う。
怪物そっちのけで、俺はそんなシステムの居酒屋にカルチャーショックを受けるのである。怪物なんぞに男泣きはできない。

 それにしても知人たちは良い奴ばかりである。
年齢がタメのH君はバンドマン。彼女とも数回会ったことがあるが、とてもサッパリとした、大学生にしてはとても気品の伺える女の子。H君は良い彼女を貰ったと俺は日々思う。そしてH君は、ライブがあると俺をいつも呼んでくれる。
前回のライブの時、
「また今度きてな」と言われ、俺は約束をした。そして後日、また彼のライブがある。
俺は彼のライブが好きだし、それに約束したのだから、何が何でも行きたいと思っている。このライブでなら男泣きしても良かろう。

一個下で「豆の木」の意味を教えてくれたMチャン。このブログを愛読してくれる彼女は、とても可愛らしく、誰に対しても「物おじ」しない、とても気作な女の子。いつも履いているスニーカーの靴ヒモは、白と茶の二色。初めてそんなヒモの通し方を見たけど、それがMチャンにはとてもシックリくる。彼女の彼氏は見たことないが、俺とタメらしい。その彼氏はなんとも羨ましい限りである。

もう一人、一個下の女の子Sチャンはとても魅力を感じさせる気ぃ使い屋さん。いつも俺が話に入れずにいると、
「○○先輩はどうなんですかぁ?」
と俺に話題をふってくれる。
今日のカラオケでも、順番でマイクが回る中、ある娘が順番を飛ばされてしまった。もちろん飛ばされた娘は、気付いているのかいないのかは定かではないが、黙ってやり過ごす。それに気付いたのがSチャン。
「曲、入れなよ〜」
とリモコンを手渡す。よく周りを見ている子だと俺は感心した。そんなSチャンに彼氏がいるかいないかはわからない。が、世の男どもが彼女を見過ごす訳がない。

 飲みも終わり、今日もいつも通り別れの時が迫る。
俺は今日、Mチャンと帰りが同じであった。
「前回、男泣きした?」とMチャン。
「しそうになった。」と俺。
色々話したけど忘れた。覚えていると、いつまでも思い出として残り、悲しみと切なさに縛られそうだから。
今日くらい、切なさなしでもいいじゃん。

 地元駅に着いた俺の上には、満点の星が光っていた。
東京でこんな星たちを見るのは久しぶりだった。
それに、東京は夜空を見上げるところじゃない。
東京は夜景を眺めるところだ。
「明日は晴れるな。」
と呟く俺の目には、かすかに水がたまっている。
「頬に流すのは惨めだから、せめて乾くまでは星空を見ておこう。」


「明日も晴天ナリ!!!」