俺と上司と上司の生きる道

バス待ちでの上司との遭遇。電車内でのはち合わせ。ペ−ペ−社員の俺にはかなりのプレッシャーである。

先輩とか後輩とか上司とか部下とか。
世間ではこんな感じのヒエラルキーが結構煙たがられている。
ペ−ペ−な俺もこの構造があまり好きではない。とはいえ、早速今日、上司とバス停で遭遇した俺。
何を話せっていうんだ、この状況。いきなり上司に、
「俺のスーツどうっすか?紳士服のコナカっすよ!コ・ナ・カ!」
上司は多分アルマーニだろうし、その前にコナカは自慢できない。メンズプラザ青木もダメ。
いくら俺が文具関係の仕事をしているからといって、
「文具チョ−好きっすよぉ〜。ちっちゃい頃俺、キン消しとかチョ−買いましたもん!」
キン消しはとりあえず文具とは言えない。その前に俺の年代にキン消しはブームしていない。嘘がすぐバレる。


とか何とか言っている俺だが、結構この緊迫したバス停を笑いに変えて見せた。
小声で俺は隣にいた同期の男子にこう言う。
「アイツ上司とか言いながら、実は俺らと同期なんだぜ!もし同期が発覚したら俺メッチャアイツ呼び捨てするから。」
同期はひきつっていた。
「笑え!笑いやがれ!笑いが世界を救う!」
俺の心の訴えはその男子には通じなかった。
「多分あの上司、俺らと仲良くなりたいんだぜ!ほら、生茶をチビチビ飲んでるだろ?あれは俺らにアピールしてんだって。でも俺はとことんアイツを無視するぜ!俺らのグループに入るには3ヶ月研修がいるからね。それをクリアーしたら俺らの仲間に入れてやろうぜ!」


とはいえ聞こえやしないだろうかと、内心ドキドキな俺。こんなリスキーゲームは初めてだ。
でもリスキーゲーム、かなり楽しい。
俺は明日、部長にタメ口を使おうと思っている。
「ken君、おはよう。」
「おはようございます、部長。」
「仕事の方は順調かね?」
「はい、かなり順調だと思うんだけどお前は?一番の高給取りなんだからちゃんと働けよ!このハゲチャビン!」


俺は明日、定年退職を迎えるだろう。
研修9日目にして定年。
リスキーゲームの代償は大きかった。