最終回

駅のガード下にある寂れた居酒屋。
その居酒屋のカウンターで1人酒を飲む。
こんなところでビールを手酌することはないだろう、と以前は思っていた。
未来など、どう転ぶかわからない。


2本目の瓶ビールをオーダーし、3本目の手羽串に手を付けようとした時、その2人はやってきた。
20代前半の青年と、40代半ばにした中年。
俺から一席空けて、彼らはカウンターに居座った。
青年のスーツにはシワ1つなく、生地もしっかりしている一方、
中年の灰色のスーツはあらぬ所にシワが目立ち、生地もくたびれていて、そのスーツは彼そのものとして表れているようであった。
「僕、最近ブログという物を作ったんです。」
チュ−ハイをオーダーした青年は言う。
「ブログ?なんだいそれは?」
中年はグラスから溢れんばかりのハイボールを、チビチビともったいなさそうに飲みながら言った。
「何て言えばわかるかなぁ?うーん、公開日記が適当かな。」
青年は自慢げに、そして誇らしげに中年に語る。
「公開日記?誰に公開するんだい?それに日記なんてのは公開するもんじゃないだろう。そりゃ交換日記とかはあったよ。でもあれだってあるグループ内で密かに進行する物じゃないか。そう、日記は秘密的な物がないと日記と呼べないよ。」
中年は少し語気を強めて言った。多分、さほど間違ったことは言っていない。日記には多少の秘密が混在する。それより間違っているのはこの2人の間に生まれた「ブログ話」である。この2人の間にブログの「ブ」の字が出た時点でジェネレーションギャップは発生している。そして何と言っても滑稽すぎる。
「おじさん、その考えはもう古いですよ。今は日記を公開するようになったんです。ブログのユーザーも飛躍的に増加しているんですよ。ブログを作るのも簡単です。真鍋かをり、っていう芸能人もやっていて、その人のブログはすごく人気があって。現代の新たな『娯楽』としてブログは認められたんですよ。」
青年はすでに2杯目のチュ−ハイを飲んでいた。
こちらの瓶ビールは多分忘れられている。
「お前の日記なんて誰も喜んで読んでやしないよ。それにその日記を書くことで、お前の人格が勝手に確立されているんだよ?そんなバカらしいもんやめちまえ。」
中年は明らかに憤慨していた。多分、青年の「その考えは古い」が火種となったに違いない。
「だから年寄りは困るんだよ。プライドか何か知らないけど、時代の流れについて行こうとしない。いや、ついて行けないだけかもね。全くバブル世代はこれだから困る。バブルの甘い汁を吸い続けて、何の努力も見せないで。それでバブル弾けたら会社クビになって職案通って、そして途方にくれて公園に弁当持ってハトと一緒に飯食って帰宅だよ。」
明らかに青年は言い過ぎていた。少なくとも、高齢層で占めるこの居酒屋の客全員を敵に回していた。
その殺伐とした雰囲気を察したのは中年であった。
2人はハイボール一杯とチューハイ2杯で店を後にした。


後にこの青年は「ブログ」その物について考えさせられた。
何せ、未だにブログを「公開」する意図が明確ではない。「公開」することに何の意味があるというのか。
自己満足?いや、違う。文章作成能力の向上?それだけじゃない。
意味がない。
後日、この青年は「ブログの存在意義」がわからなくなり、閉鎖することに決めた。
その青年の名は「kenwatanabe」というらしい。






静かな大地

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となり町戦争

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